Azure AI FoundryにおけるマルチエージェントAIとは?
マルチエージェントAIとは、複数の AI エージェントが役割分担し、自律的に協調しながらタスクを遂行する仕組み のことです。
単一のエージェントでは対応しきれない複雑なワークフローでも、「企画」「分析」「実行」「検証」など役割を分けることで精度と業務速度を大幅に向上できます。
さらに Azure AI Foundry では、これらエージェント同士のやり取りを オーケストレーション(調整) する機能が提供されています。ツール呼び出しの制御、スレッド状態の更新、再試行管理、ログ記録など、エージェントのライフサイクル全体を Foundry が一元管理するため、企業利用に耐える安定性を確保できます。
ここでは、「AIエージェント」「マルチエージェントAI」の基本概念と、その利点について解説します。

マルチAIエージェントのオーケストレーションとAI Foundry(Microsoft)
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AIエージェントとは?
AIエージェントとは、指示を理解し、自ら考えて行動するAIを指します。
単に質問に答えるだけのチャットボットとは異なり、目的を達成するために必要な手順を自分で判断し、実行まで行うことが特徴です。

AIエージェントイメージ(Microsoft)
たとえば、ユーザーから「請求書を要約して」と頼まれたときにAIエージェントは次のように一連の流れを自動で行うことができます。
- 指定された請求書ファイルを取得する
- 内容を要約する
- 結果をExcelにまとめて保存する
このように、エージェントは「何をすべきか」だけでなく「どうやって達成するか」も自分で考えて実行します。エージェントは「考えて行動するAI」として、一つのタスクを完結させる自律的な存在です。
マルチエージェントとは?
マルチエージェントとは、複数のAIエージェントがチームのように協力して1つの目的を達成する構成のことです。
人間の組織と同じように、1つのAIにすべてを任せるのではなく、それぞれが得意な役割を分担することで、より高度で複雑なタスクに対応できるようになります。
たとえば、企業のリサーチ業務を自動化する場合、次のように役割を分けることができます。
- 情報収集エージェント: Web検索やデータベースから必要な情報を探す
- 分析エージェント: 集めた情報を要約・分析し、重要なポイントを抽出する
- レポート作成エージェント: 分析結果を読みやすいレポート形式に整形する
このように、各エージェントが専門性を持って協力することで、単一のエージェントでは難しい複雑な業務フローを実現できます。
マルチエージェントのメリット
一見すると、1つのエージェントで全部を行う方が効率が良いようにも見えます。しかし、実際にはAIによる分業(マルチエージェント構成)を取ることで、システム全体に次のようなメリットがあります。
- 専門性の向上:各エージェントが特定の業務領域に最適化されます。
- 精度と信頼性の向上:処理を分担することでミスや偏りを減らすことができます。
- スケーラビリティの確保:新しい役割のAIを容易に追加することも可能です。
- 保守性・再利用性の向上:特定の部分(例:要約のロジック)だけを更新しても、他のエージェントに影響がないため、個々のエージェントを独立して改善することができます。
結果として、AIシステムがよりモジュール化され、柔軟に拡張できるようになります。
Azureでマルチエージェントを構築するには
マルチエージェントAIの基本概念を理解したところで、次はAzure上での具体的な構築方法について見ていきましょう。
Azureは、マルチエージェントシステムを構築するための強力な基盤を提供しており、エンタープライズ利用に必要な機能が揃っています。
Azureでのマルチエージェント構築の利点
Azureでマルチエージェントを構築する最大の魅力は、スケーラビリティ・統合性・管理性の3点です。
- スケーラビリティ:Azureは大規模な分散処理に強く、エージェントの数が増えても自動でスケールアウト/スケールインできます。負荷に応じてリソースを柔軟に調整できるため、大規模運用にも対応可能です。
- 統合性:Azure OpenAI、Azure AI services、Functions、Logic Appsなど様々な関連サービスと連携できるため、エージェント同士や外部システムとの連携をスムーズに行うことができます。
- 管理性:セキュリティ認証はAzure Entra ID(旧Azure AD)、監視はAzure Monitorといったように、運用やセキュリティの基盤が一体化されています。企業利用に必要なガバナンスを備えた構成が可能です。
これらの利点により、Azureは単なる開発環境ではなく、本番運用まで見据えたマルチエージェントシステムの構築に適したプラットフォームと言えます。
Azure AI Foundry Agent Serviceによる構築アプローチ
Azureでは、Azure AI Foundry Agent Serviceによる「接続されたエージェント」によって構成することが可能です。
GUIベースで複数のAIエージェントをつなげて動かすことができ、アクセス制御や監査、スケール管理などが自動化されており、企業利用に最適です。
ではその詳細や具体的な手順をご紹介していきます。
Azure AI Foundryの「接続エージェント」
Azure AI Foundry Agent Serviceは、Microsoft が提供する AIエージェント開発・運用のための基盤サービスです。
この仕組みの中核を担うのが、接続済みエージェント(Connected Agents)と呼ばれる機能です。
接続済みエージェントとは?
接続済みエージェントとは、Azure AI Foundry Agent Service に用意されている機能で、複数のAIエージェントを接続し、役割を分担させながら自動で連携させる仕組みのことです。
中心には「メインエージェント(司令塔)」があり、メインエージェントがユーザーの指示を理解して、適切なサブエージェント(専門担当:要約、検索、検証など)にタスクを割り振ります。
実践例:契約書レビューを行うエージェントチーム
法務業務を例にすると、接続済みエージェントは次のように機能します。
- メインエージェント:ユーザーの依頼(「契約書を要約して」「リスクを確認して」など)を理解し、タスクを適切なサブエージェントに委任します。
- 接続エージェント1: 契約の主要条項(期間、支払い条件、秘密保持など)を抽出・要約します。
- 接続エージェント2: 社内ポリシーやテンプレートと照合し、危険な文言や不備を検出します。
このような分業体制をとることで、レビュー精度が向上し、AIを安全に業務へ組み込むことが可能になります。
アプローチ1の実装手順
Azure AI Foundryでは、コードを書かなくてもポータル上の操作だけで、マルチエージェントを作成することができます。
ここでは、一例として次のような構成を作ります。
- メインエージェント:research_agent
- 接続済みエージェント:stock_price_bot(株価取得担当)
事前準備
実装前に以下を準備しておいてください。
- Azure サブスクリプション
- プロジェクト:すべてのエージェントはプロジェクト単位で管理されます。ポータル上で、新しいプロジェクトを作成するか、既存のプロジェクトを選択してください。
- エージェント:接続済みエージェントを利用するには、メインエージェントに接続するサブエージェントも事前に作成しておく必要があります。
プロジェクトやエージェントの作成手順については、以下の記事も参考にしてください。
AzureにおけるAIエージェントとは?構築を支える主要サービスと構築手順を解説
手順
1. Azure AI Foundry ポータルにサインインし、作成済のプロジェクト内で[エージェント]を選択し、メインエージェントとするエージェントをクリックします。

エージェント選択画面
ここでは、事前に作成したresearch_agentというエージェントを選択します。
2. 右のエージェントの設定画面で、ページ下部にある [接続されたエージェント]セクション までスクロールします。[+追加] をクリックします。

接続されたエージェントの追加ボタン
3. ダイアログが開いたら、以下を入力します。
- エージェントの選択:ドロップダウンから、接続したい既存のエージェントを選びます。メインエージェントがこのエージェントにタスクを委任します。
- 一意の名前:接続されたエージェントの内部識別名を入力します。英字とアンダースコアのみ使用可能です。

入力画面
4. 入力が完了したら、[追加]をクリックします。
必要に応じて、同じ手順で複数のサブエージェントを追加することもできます。

入力済み画面
5.追加した接続済みエージェントが一覧に表示されます。

一覧表示
6. ページ上部へ戻り、[プレイグラウンドで試す] を選択します。
ここで実際に動作を確認できます。

プレイグラウンドで試すボタン
7. 次のテストプロンプトを入力してみます。
「Microsoftの現在の株価は何ですか?」

質問例
9. research_agent は質問内容を理解し、「株価情報は stock_price_bot が担当」と判断して、処理を自動で委任します。

委任の説明
この例でも、接続されたエージェントを利用して回答したことがわかります。
10. これで、メインエージェントが複数のサブエージェントにタスクを自動的に振り分けるマルチエージェント構成が完成です。
構築後は、必要に応じてサブエージェントを追加したり、各エージェントの説明(役割)を調整したり、振り分け精度をテストしたりすることで、運用を最適化することができます。
Azure AI Foundry Agent Serviceによる「接続されたエージェント」の利用が適しているケース
Azure AI Foundry の接続エージェントは、ローコードで実装可能なAIオーケストレーション環境です。
GUI上でスキル(Function)や外部コネクタを組み合わせ、自然言語でタスクを分配することができます。
- 強み:設定ベースで素早くプロトタイプを構築できる
- 向いている用途:社内FAQ、Copilot拡張、ナレッジ連携、RAGアシスタントなど
- 特徴:Azureポータルからの管理・モニタリングに統合されており、商用利用にも最適
「エンジニアでなくてもAIエージェントを設計できる」という点が大きな魅力です。
マルチエージェントシステムの運用で押さえるべき3つのポイント
マルチエージェントシステムを構築した後、本番環境で安定的に運用するには、セキュリティ・監視・コスト管理の3つの観点が欠かせません。
Azureには、これらの運用課題に対応するための各種サービスが用意されています。このセクションでは、エンタープライズ環境でマルチエージェントを運用する際に必ず押さえておくべきポイントを解説します。
セキュリティ:Entra IDとAPI Managementによるアクセス制御
マルチエージェントシステムでは、エージェントが様々なデータソースやAPIにアクセスするため、適切なアクセス制御が不可欠です。
Azure環境では、Microsoft Entra ID(旧Azure AD)による認証とAPI Managementによる認可を組み合わせることで、厳密な権限管理を実現できます。
設計時に明確にすべきポイントは以下の2点です。
- 誰がメインエージェントを利用できるのか
- どのサブエージェントがどのデータソースにアクセスできるのか
例えば、営業部門のユーザーはCRMデータのみ、技術部門は社内ドキュメント検索のみにアクセスを制限するなど、役割ごとの権限分離を明確に設計することで、情報漏洩のリスクを最小化できます。
監視:Azure Monitorによる稼働状況の可視化
複数のエージェントが連携する環境では、システム全体の稼働状況をリアルタイムで把握することが重要です。どのエージェントで遅延が発生しているのか、どこでエラーが起きているのかを素早く特定できなければ、迅速な対応ができません。
Azure Monitor を導入することで、以下のような指標を一元的に監視できます。
- 各エージェントの応答時間(レスポンスタイム)
- エラー発生率
- 外部ツールやAPIの呼び出し状況
これらのメトリクスを常時監視することで、パフォーマンス低下や障害の予兆を早期に検知し、安定稼働を維持できます。
コスト管理:Cost Managementによる費用対効果の測定
マルチエージェント環境では、複数のAIモデルやAzureサービスが同時に稼働するため、コスト構造が複雑になります。予期せぬコスト増加を防ぐには、継続的なコスト監視と分析が欠かせません。
Azure Cost Managementを活用することで、以下のようなコストを詳細に把握できます。
- 各エージェントが消費したトークン量
- Azure Functionsの実行回数
- サービスごとの利用料金
これらのデータを定期的に分析し、不要な呼び出しを削減したり、より効率的なモデルへ切り替えたりすることで、費用対効果を最適化できます。
まとめ
本記事では、Azure AI Foundryの「接続エージェント」を使って、ポータル上で簡単に複数のAIを連携させる方法をご紹介しました。生成AIの活用には、単発応答型のAI、シンプルなAIエージェント、マルチエージェント等様々なアプローチ方法が発表されています。それぞれの特徴を理解し、自社の業務内容や開発体制に合った方法を選ぶことで、Azure上でより柔軟かつ高度なAI自動化を実現できるでしょう。
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