AzureにおけるAIエージェントとは?
単なるChatGPTのような対話型ツールより一歩進んだ存在で、指示を待つだけではなく、自らタスクを判断し、必要なアクションを実行できます。本章では、こうしたAIエージェントの特徴と、Azure上で構築することで得られるメリット について解説します。
AIエージェントの特徴
AIエージェントは、「単発で答えるAI(チャットボット)」ではなく、考え、行動し、学ぶAI です。通常、次の4つの機能を備えています。
- 計画:ゴールに向けて自分で手順を考えることができます。
- 認識:周囲の状況や情報を理解する力を持っています。
- ツールの使用:必要に応じて外部ツールやアプリを自動で使います。
- メモリ:過去のやり取りや行動結果を覚えて学びます。
たとえば 「お客様へのお礼メールを作成して」と指示すると、AIエージェントは次のように動きます。
- 必要な情報(顧客・目的・過去の文面など)を整理して手順を立てる。
- 過去のメールや顧客情報を検索して文脈を理解する。
- メールアプリを操作して下書きを作成・添付資料を整理する。
- やり取りの内容を保存し、次回のメール作成に活かす。
このように、単なるチャット応答ではなく、実際にタスクを実行する存在という点が大きな特徴です。
AzureでAIエージェントを構築するメリット
AIエージェントは、思考・検索・統合・記憶といった複数のタスクを連携させながら動作します。そのため、1つのサービスだけでは情報の取得・実行・統合をすべて担うことはできません。
その点、Azureを利用すれば、AIの実行基盤に加え、検索機能、認証、データ連携、業務アプリとの統合など、エージェント開発に必要な要素を統合的かつ安全に利用することができます。
開発のハブ:Azure AI Foundry
Azure AI Foundry は、Azureの中でもAIエージェント開発に特化した中核的なプラットフォームです。
具体的には、以下のような点で強みを発揮します。
- 統合管理:モデル、ナレッジソース、ツールを一括で管理でき、開発から運用までをスムーズにつなげることができます。
- 安全な運用:Microsoft Entra ID(旧Azure AD)による認証やアクセス制御で、企業利用に求められる高いセキュリティを実現することが可能です。
- 拡張性の高さ:Azure Machine LearningやAzure AI Searchなど、多くのAzureサービスとスムーズに連携します。
- ノーコード/ローコード対応: GUI(画面操作)で簡単に設定やエージェント構築が可能で、コーディングが得意でなくても、すぐに試作・実装できます。
つまり、Azure AI FoundryはAIエージェントの開発・運用を「現実的な業務レベル」に引き上げるための最適なサービスであると言えるでしょう。
AIエージェント構築を支えるAzureの主要サービス群
AzureでAIエージェントを構築する際には、目的に応じて複数のサービスを組み合わせることが基本になります。
ここでは、開発の中心地となる Azure AI Foundry を軸に、エージェントを実行・管理する Azure AI Foundry Agent Service(司令塔)、AIの知能そのものを担う Foundry Models(頭脳)、そして情報検索や自動処理を支える Knowledge & Tools(補助機能) の3つの層に分けて紹介します。

Azureの主要サービス群(参考:Microsoft)
こうしたサービスが連携することで、AIエージェントは「理解 → 判断 → 行動」を自律的に行えるようになります。
Azure AI Foundry Agent Service(司令塔)
Azure AI Foundry Agent Serviceは、エージェントを「設計・実行・管理」する基盤で、主に以下の機能があります。
- 処理の自動管理:AIモデルやツールの使い方を自動で調整し、エージェントが正しい順番でタスクをこなせるようにします。
- 会話とタスクの状態管理:複数のユーザーとのやり取りを同時に進めても混乱しないよう、それぞれの会話や作業を別々に管理します
- セキュリティの強化(ネットワーク分離):社内システムや機密データにアクセスする際、外部から隔離された安全なネットワーク環境で処理します。
- 認証とアクセス制御の統合:Microsoft Entra ID(旧Azure AD)と連携し、ユーザー本人の代わりに安全にAPIや社内リソースへアクセスします。
つまり、 Azure AI Agent Serviceは、エージェント全体を動かす“司令塔” のような役割を担っています。
Foundry Models(頭脳)
エージェントの「頭脳」となるのが、Azureで利用できるAIモデルです。モデルとは、AIが言葉を理解したり考えたりするための「知能の仕組み」のことを言います。
Azureでは、目的に合わせて次の3種類のモデルを使うことができます。
- Hosted & sold by Microsoft & others:Azure OpenAI の GPT 系モデルや、外部パートナーによる提供モデル
- Fine-tuned models:自社の業務やデータに合わせて調整(チューニング)したモデル
- BYO-models(Bring Your Own Models):独自に開発したモデルや、オープンソースのLLM(大規模言語モデル)を持ち込んで利用することも可能。
こうしたモデルがエージェントの「頭脳」となり、ユーザーの指示を理解し、計画を立て、自然言語で応答します。
Knowledge & Tools(補助機能)
AIエージェントは、さらに以下のさまざまな Azureの補助サービス と組み合わせることで、より高機能になります。
- Azure AI Search:社内文書やナレッジベースを検索できるサービスです。 エージェントが自社データを使って答えられるようにする「RAG(検索拡張生成)」の基盤となります。
- Bing 検索:インターネット上の最新情報を取得するサービスです。 ニュースや外部データをもとに、より正確な回答が可能になります。
- SharePoint / Microsoft Fabric:社内のドキュメント、レポート、データセットをAIが理解・参照できます。
- Azure Functions / Logic Apps:外部システムと連携したり、自動的にアクションを実行したりできる仕組みです。
こうした補助サービスを組み合わせることで、エージェントは「情報を知る」「判断する」「行動する」までを一貫して行えるようになります。
AIエージェントのエンタープライズ運用のための必須サービス
AIエージェントを実際のビジネス環境で運用するには、セキュリティ・安全性・監視・コスト管理といった基盤が欠かせません。
その点、Azureでは以下のような機能やサービスによりエンタープライズ環境に求められる信頼性とガバナンスを実現することができます。
Azure AI Foundry Observability:動作を“見える化”する仕組み
AIエージェントを業務に投入する上で欠かせないのが「中で何が起きているか」を把握する仕組みです。特に企業での利用では、監査や改善の観点から 可観測性(Observability)が不可欠となります。
Azure AI Foundry には、次のような観測・分析機能が標準で備わっています。
- ログ管理:エージェントがどんな質問を受け、どんな回答やツールを使ったかを自動で保存します。
- トレース:「なぜその回答になったのか?」を後からたどれるように、処理の順番を時系列で記録します。
- 動作の監視:エージェントが正しく動いているか、遅延やエラーがないかをリアルタイムで監視します。
- 評価・実験:応答の内容を評価し、プロンプトやモデル設定を調整して精度を高めることができます。
この仕組みにより「どの処理でエラーが起きたのか」「なぜその回答になったのか」を突き止めやすくなり、トラブルシューティングや継続的な改善が可能になります。
※なお、一部の機能は現在プレビュー段階である場合や、リージョンが限定されている場合があります。詳細はこちらを参照してください。
Azure AI Content Safety:安全なコンテンツを保証する
Azure AI Content Safetyとは、 Microsoftが提供する生成AI向けのコンテンツ監視・フィルタリングサービスで、次のような安全対策機能が備わっています。
- 不適切表現の検出:差別的表現や攻撃的な言葉を自動でフィルタリング
- 有害コンテンツの抑止:性的・暴力的、または社会的に不適切とされるコンテンツをブロック
- 企業ポリシーに沿った安全性の担保:組織ごとにカスタマイズ可能なフィルタリングルールを設定可能
Azure AI Foundryで構築したエージェントは、この仕組みを標準で利用可能です。そのため、外部公開や顧客対応などの場面でも、安全かつ信頼性の高い生成AI運用を実現できます。
認証・認可とセキュリティ:Entra ID と API Management
AIエージェントを業務に組み込む際には、「誰が使えるのか」(認証)と 「どのシステムにアクセスできるのか」(認可)を厳密に管理する必要があります。
Azureでは、このアクセス管理を支える2つの主要サービスが提供されています。
- Microsoft Entra ID(旧Azure AD):ユーザー認証とロールベースアクセス制御(RBAC)を通じて、権限のない利用や情報漏えいを防止。
- Azure API Management:エージェントが利用するAPIを保護し、アクセス制御や利用量制限(スロットリング)を適用して不正アクセスを防止。
こうした仕組みを組み合わせることで、AIエージェントはエンタープライズ水準のセキュリティを満たし、社内システムや外部サービスと安全かつ統制された形で連携することが可能になります。
監視とコスト管理:Azure Monitor と Cost Management
エージェントの安定稼働とコストの最適化には、継続的な監視が欠かせません。
Azureでは、2つの主要サービスが提供されています。
- Azure Monitor:エージェントの稼働状況やパフォーマンスを継続的に監視し、問題を早期に発見。
- Azure Cost Management:API呼び出し回数やリソース使用量を追跡し、予算超過を防止。
こうしたサービスを組み合わせることで、システムの異常を早期に検知し、無駄なリソース消費を防ぐことができます。
AzureでAIエージェントを開発する際のアプローチの選び方
AzureでのAIエージェント開発には複数のアプローチがあり、目的やスキルに応じて最適な選択が変わります。
ここでは、代表的な選択肢をご紹介します。
Azure AI Foundry Agent Service
ここまでもご紹介してきたAzure AI Foundry Agent Service は、Azure AI Foundry 内に用意されたマネージドサービスです。AIエージェントを作成・管理・運用するための標準フレームワークを提供しています。
主な特徴は以下の通りです。
- 開発の柔軟性:OpenAI SDK / Foundry SDK の両方を利用可能
- 高いセキュリティと監査性:Entra ID 連携やネットワーク分離に対応
- 拡張性の高い運用:Azure上での本格的なスケーラブル運用が可能
セキュリティやガバナンスが求められる企業シナリオや大規模AIアプリケーションに最適な選択肢です。
Assistants API
Assistants API は、OpenAIが提供するもっとも基本的なエージェント開発用APIです。Azureでも利用できますが、使えるのはOpenAIが提供するモデルに限定されます。
まずは小規模な検証や試作(PoC)から始めたい人に最適です。
Microsoft 365 Agents SDK
Microsoft 365 Agents SDK は、開発者が自分の管理する環境でAIエージェントを動かす(セルフホステッド型)ための開発キットです。
このSDKを使うと、TeamsやOutlookなどのMicrosoft 365製品だけでなく、SlackやMessengerなどの外部チャネルにもエージェントを展開することができます。
Microsoft 365環境との親和性が高く、既存の業務アプリにAI機能を組み込みたい開発者に最適です。
Copilot Studio:市民開発者・ビジネスユーザー向けの迅速な構築
Microsoft Copilot Studio は、プログラミングの知識がほとんどなくても、AIエージェントをすばやく作成・展開できるローコード/ノーコード開発環境です。
現場のビジネス担当者でも扱いやすいよう設計されており、Microsoft 365(Teams・Outlook など)や、Slack・Messengerといった外部チャネルとも簡単に連携できます。
ビジュアルデザイン画面を使ってフローを組むだけで動作するため、非エンジニアでも業務改善にAIを活用できるのが大きな魅力です。
どの選択肢を選ぶべきか?
ここまで紹介してきた4つの選択肢のうち、どれを優先的に検討すべきかは、ユースケースと開発体制によって変わります。大まかな目安は次のとおりです。
利用目的 | 推奨アプローチ |
|---|---|
業務部門がノーコードで手軽に試したい | Copilot Studio |
小規模なPoCとしてまず動くものを試したい | OpenAI Assistants API |
Azure上で本番運用・ガバナンスまで見据えて構築したい | Azure AI Foundry Agent Service |
Microsoft 365中心の業務をAIで拡張したい | Microsoft 365 Agents SDK |
今後の拡張範囲も見据えて選択すると良いでしょう。
AzureでのAIエージェント構築例
ここまでのサービスを組み合わせ、具体的なAIエージェントを構築する際のアーキテクチャ例と実装例を紹介します。
システム全体像:アーキテクチャ図とデータの流れ
以下は、「ユーザーがWebアプリに質問し、AzureのAIエージェントが答えるまでの流れ」を示した図です。

アーキテクチャ例(参考:Microsoft)
流れは次のとおりです。
- ユーザーが質問する:ユーザーが、Webアプリ(App Service)にアクセスして質問を送ります。
- アプリで認証する:App Service が「この人は誰か?」を確認し、安全に処理を受け取ります。
- エージェントサービスに渡す:認証済みの質問が「Azure AI Foundry Agent Service」に送られ、AIエージェントが処理を開始します。
- 知識を探す:必要に応じて Azure AI Searchを呼び出し、社内マニュアルやナレッジベースから関連情報を検索します。
- 答えを考える:Azure OpenAIが、取得した情報をもとに自然な文章で回答を生成します。
- 監視と記録:全体の流れは「Application Insights / Azure Monitor」で監視され、質問内容やエージェントの動作ログが記録されます。
シナリオ例:社内マニュアル検索エージェントのシナリオ
このアーキテクチャを利用すると、次のようなシーンを実現することができます。
【例:社員がWebアプリから質問するケース】
- 社員がWebアプリから「PCの初期設定方法を教えて」と質問
- 認証を経て、Azure AI Foundry Agent Serviceに質問が送られる
- Azure AI Searchが社内マニュアルの中から「PC初期設定ガイド」を検索
- Azure OpenAIがその内容を読み取り、人間にわかりやすい文章に要約
- Webアプリに「こちらの手順でPCを初期設定できます」と回答を返す
- すべてのやり取りはApplication Insights / Azure Monitorに記録され、後から改善や監査に活用可能
構築の準備:必要な環境とアクセス権限
ここからは、以上のシナリオをAzure AI Foundryで実現するための簡単な実装例をご紹介します。
事前の準備は次のとおりです。
1. Azure サブスクリプション :Azure 上でリソースを作成・管理するためのサブスクリプションが必要です。
2. アクセス権限 : プロジェクトを新規作成するには、サブスクリプションに対して次のいずれかのロールを持っている必要があります。
- Azure AI アカウント所有者
- 共同作成者
- Cognitive Services 共同作成者
※作成したプロジェクト内でエージェントを開発・操作するには、そのプロジェクトに対して Azure AI ユーザー ロールが付与されている必要があります。
実装手順①:Azure AI Foundryでエージェントを作成する
1. Azure AI Foundry ポータルにサインインし、「エージェントを作成する」をクリックします。

エージェント作成ボタン
2. プロジェクト名を入力し(必要であれば「高度なオプション」で設定を変更)、作成ボタンを押すと、自動でリソースが用意されます。

プロジェクト作成画面
3. モデルが自動的にデプロイされ、既定のエージェントが作成されます。完了後、そのまま「エージェントのプレイグラウンド」に移動してエージェントの機能をすぐ試すことができます。

プレイグラウンド画面
実装手順②:エージェントにAzure AI Searchを追加する
次に、エージェントに Azure AI Search を接続し、社内マニュアルなどのナレッジを参照できるようにします。
1. 右側のメニューから[ナレッジ]を開き、[追加]をクリックします。
ナレッジの追加画面
2. 接続方法として「Azure AI 検索」を選択します。

Azure AI 検索の選択
3. 接続先の Azure AI Search リソースについて、必要な項目(エンドポイントやインデックス名など)を入力し、[接続]をクリックします。

Azure AI Search 接続設定画面
これで、エージェントが Azure AI Search を通じて社内マニュアルや FAQ などのコンテンツを検索できるようになります。
Azure では、本記事で説明したように検索連携に限らず、目的や要件に応じて多様な構築方法を選択できる柔軟性 が備わっています。AI エージェントの設計方針、セキュリティ要件、企業の既存システムとの統合レベルに合わせて、最適なアーキテクチャを構成することが重要だと言えるでしょう。
まとめ
本記事では、AzureにおけるAIエージェントの基礎から、Azure AI FoundryやAzure AI Foundry Agent Serviceを中心とした主要サービス、さらにCopilot Studioなどの開発手法や実践アーキテクチャ例までを紹介しました
AzureでのAIエージェント構築は、開発の拠点となるAzure AI Foundryを中心に、考える役割のAIモデルと、実行を担当するAzure AI Foundry Agent Serviceを核として動きます。さらに、知識を探すAzure AI Searchや、実際に処理を行うFunctionsなどを組み合わせることで完成します。このように部品を自由に組み合わせられる仕組みが、企業のさまざまなニーズに応えられるAzureの強みです。
Azureを活用することで、安全性と拡張性を両立したエージェントを効率よく構築・運用でき、業務自動化を次の段階へと進めることが可能になります。
ぜひ本記事を参考に、自社の課題解決に向けたエージェントの設計を始めてみてください。
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